短編2話読み切り スーツはどこから?

 

第1話

 

木曜日

 

「次はミーティングがあって、その後は資料作成よね…。」

 

あたいの名前はおあつ。

自宅は丹沢。だけどみんなには横浜って言ってます。

ばれたら厚木ってごまかすわ。そんなの、神奈川県民の常識でしょ?

今は東京にあるHという会社で仕事をしています。

だから、毎週末にホテルに自慢の白いオ○ッセイで向かってるの。

なんだか、キャリアウーマン、っていうのかしら。ほほほ…。

 

「あれ?おあつ、また今日もそのスーツなの!?」

「え、そうですよ。だってスーツは1着しか持ってきてないんですもの。」

「本当に〜?」

「本当ですってばー!」

 

もう、うるさい人ね!あの人は王子。肝臓壊して入院したの。

あたいは、平日ホテル住まいだから、荷物を少なくしたくて、

スーツは1着しか持ってこないのよ!

 

「でもさ、なんだかんだいって、いつも同じだよね。」

「もう、ねこパンチさんまで!」

 

この人はねこパンチさん。クールな人なんだけど、自宅に帰りたくないんですって。

なんで帰りたくないのかしらね?

それにしても、みんなひどいんだから。さ、ミーティング行かなきゃ。

あら、ちょっとお尻がかゆい…。

 

ポリポリ

 

ん?

ま、まさか…。

 

や、破れてる?どうしましょー!

 

大丈夫よ、おあつ。落ち着いて。上着を着ればごまかせない大きさでもないわ。

あとは、彼らに見つかりさえしなければいいのよ。

さ、上着を着て、完璧ね。

 

パサッ…。

 

あ、書類が床に…。

 

「あれ?おあつ、右のお尻破れてるよ!」

「お、王子…。」

 

 

第2話

 

金曜日

 

あたいとしたことが、昨日はうっかりしていたわ。

まさか書類を拾う瞬間を王子が見ているなんて…。

スーツを着ていたって、かがめば見えちゃうものね…。

あいつはいつか刺すわ。あの日のカモの様に!

 

それにしても、今日は一日、スーツの上着は脱がずにがんばったから

もうみんな忘れてる頃でしょう。

あと少しで今日も終わるわ。そうしたら新しいスーツを…。

 

どの店に忍び込もうかしら☆

 

でも、この会社は昼休み過ぎから異常に暑くなるのよね〜。ふー暑い。

今、何時かしら?

5時45分ね。今日は定時日だから6時には上がれるわ。

 

…?

 

何かしら?おしりが涼しいような。

 

ま、まさか…。

 

!!!

 

ありえないわ!ど、どうしましょう。コートを着なきゃ!

落ち着いて。誰も見ていないわ、おあつ。きっと誰も知らない!落ち着くのよ!!

一体いつから…。こんなにも大きく…。

誰かに相談しなきゃ。王子はダメね…。あ、ねこパンチさん。

 

「どうしたの、おあつさん?」

「じ、実はね…。あまり大きなリアクションとらないで。王子に気付かれるから」

「なになに?」

「実は…。」

「お、おあつさん。パンツ丸見えじゃん!ひどいよ!昨日破れたのが拡がったの?」

「静かに!違うのよ。それはこっち。今日は反対側。」

「何それ!」

「あたい、もう帰ります」

「そうしなよ!」

 

さ、行き先掲示板に退社のマグネットをつけて。

 

「お先に失礼しまーす。」

「あれ、おあつ?行き先掲示板に”洋服の○山”って書かなくていいの?」

「お、王子…。気付いてたの?」

 

あの笑顔…。

 

あいつだけは、殺す

 

終わり