カップでプレゼント編
第1話 イントロ
ある日の朝、浜のオヤジは、時間帯によって使えなくなる喫煙ルーム
(浜のオヤジ的にはかなり不満)を出た後、「コーヒー、買っちゃおっと」
渋滞で遅刻したくせに、なぜかルンルンで自動販売機前にたどりついた。
(どうやらこの日、浜のオヤジは‘二日酔い’らしい。彼は何故か‘二日酔い’の日は機嫌が良いらしい!:彼の長年の後輩談)
コーヒーを買うつもりで来たのに、いつものようにブツブツ迷って、結局、緑色の液体
(商品名は不明)のボタンを押した後、商品が出てくるのを待っていた。
ふと、返却レバーの部分を見ると、紙束がぶらさがっている。
どうやら、サービスキャンペーンの応募用紙だ!(しかも新しい。)
「さっきすれ違った、自販機ベンダーのにいちゃんが、ぶるさげてったのか!
まだ新しいな、ラッキー!」
この手の物に目の無い浜のオヤジは、さっそく1枚をやぶり取り、その‘重要な紙切れ’と
‘緑の液体’を片手に自分の席に戻った。
(浜のオヤジはこの手の物は、結構当たるらしい。最近では自分の似顔絵フィギュアが当たった。
実際は子供の物になったが...)
「どれどれ、なにが当たるのかな」
朝一番となる浜のオヤジの‘重要な仕事’紙切れチェックが開始された。
第2話 きっかけ
浜のオヤジがチェックを開始し、当選品を見ると
「液晶テレビ、PSX、食器洗い乾燥機!何だ、つまらんなあ」と思っていた。
横を見ると、おあつ、がこっちを物欲しそうに見ている。
‘何だ、こいつ....。何でも欲しがるなあ!’と思いながら
「これ、重要書類だけど、おまえにやるよ!」浜のオヤジは広い心で
おあつにその紙をくれてやった。
おあつは、その‘イイコトありそうキャンペーン’の紙をむさぼるように読み始めた。
おあつの癖で、この手の物は一番下から読み始める。
すると‘有名デパートカタログギフト’の文字が目に飛び込んだ!
この時、おあつの頭の中で、光が走った。
「これだわ!これで、毎日の食事がおいしく食べられる」
そう、彼女はこのカタログの食料品関係のページを、おかずに食事をしようと考えたのだ。
何ページあるかは、今の時点ではわからない。
肉あり、魚あり、野菜あり、他にも、かにもあり、蟹缶もあり(一般人にとっては猫のえさ)!
おあつは、すでに、当たった時のことを考え、楽しい食事を夢見て恍惚の状態に陥っていた。
「おい、どうした....おあつ!」遠くから浜のオヤジの声が聞こえる。
おあつは我に返った。
この後の、おあつの行動は早かった。そして幸せだった。
「ああして、こうして・・・・・・・・」
思いがどんどんと広がっていく。
「何で、私は、こんなに頭がいいの?三河の両ちゃんとはだいぶ違うわねえ!」
こうして、瞬間的な幸せの時が過ぎていった。
第3話 策略
おあつ の早かった行動とは....
そう、カタログギフトを当てる為には、応募券を集めなければならない。
その応募券とは、皆様の想像通り、カップに印刷されているのである。
ということは、カップを集めなければならない。
普通の常識を持った人であれば、コーヒー等を買い続け(普段より多く!ベンダーの狙い、ですね)集める、というのが通常である。
しかしながら、ここが、おあつの違う所!
朝っぱらから、騒いでいるので、野次馬根性、丸出しの数人が集まってきた。
と言っても、東京都下に群生している、やかましい軍団(最近、新人から嫌われだしたらしい)
王子、猫パンチ男、から揚げの怪人、そしてタマヒゲといったいつものメンバーである。
彼らは、きらきらと目を輝かしている おあつ を見て、その後、浜のオヤジを見た。
そして、「浜のオヤジが、又、‘おあつ’をいじくったな!」と思い、
おあつ の手の中にある‘いいことありそうキャンペーン’の紙切れを見て
「はは〜ん」と全てを理解した。
おあつのまなざしが、全員を襲う。
そう、おあつの瞬間的な、思いの速さとは、彼らの同情を誘い、応募券を一挙に集める
という事だったのである。
第4話 応募準備
この日からは
「はい、おあつ、これね」
「ここにおいて置くよ」
「ほれ、やるよ」
おあつの机の上はカップだらけになった。
皆の同情により応募券が集まりだした。
というよりも、皆はカップを捨てに行く、と言う行動が面倒くさかったという話もある。
と同時に、おあつはだんだんと残業時間が増えだした。
読者の皆さんはもうお分かりであろう、残業時間も遅くなると人が少なくなる。
そこで、おあつは‘ごみ箱’あさりをしていたのだ。
ここら辺はおあつにも多少、世間の常識という言葉が頭の片隅に残っていたのだろう。
また、おあつは絵も練習した。
猫パンチが別の自動販売機で買ってきてしまった時、おあつは何とか出来ないかと
考え、一生懸命に応募券の絵を書き写したのだ。
(まあ、これは浜のオヤジが「止めたほうがいいよ」の一言で中止したが....)
かなり集まった時に、浜のオヤジは言った。
「応募と言うのは、まとめて送るよりも分けた方がいいぞ」
その一言で、おあつは行動を開始した。
台紙に応募券を貼り付ける。
しかしながら、おあつの性格による所であるが、数枚をベタッとセロテープで貼る。
(もちろん、セロテープは会社の備品である)
浜のオヤジは見かねて「そんなんじゃあ、あたらんぞ!丁寧に貼らんと」
おあつはそれを聞いて、必死で貼り直した。
会社の備品であるセロテープはみるみる無くなっていく。
他にも、浜のオヤジに「台紙は気持ち、大きく作るんだ」とか入れ知恵をされ
数枚の応募台紙が完成した。
第5話 送ろう!
さあ、後はポストに入れるだけ!
おあつは準備万端、ご満悦である。
「これで、春からの食事には困らないわ!さすがあたいね」
王子にも「よかったねー!」と言われ
猫パンチには「ほんと、幸せそう!」
タマヒゲには「ボーナス、いらんだろ!」からかわれ
トリ男には「今度、ご馳走になりに行きます!」と
皆からは、応募に当たったように囲まれている。
と、その時浜のオヤジはボソッと言った。
「おまえ、切手、貼って無いじゃん!!」
そう、おあつは‘応募するには切手が必要’ということに気がついてなかったのだ。
「はっ、どうしよう!」
囲んでいる皆を上目使いで見渡すおあつ!
「仕事しよ、仕事」
「会議、会議」
「あれを、こーしてぇ、えーと」
皆は蜘蛛の子を散らすように離れていった。
当たり前の話である。
切手代をたかられそうな雰囲気だったからだ。
後、おあつに残された道は‘会社の備品切手を使う’という方向だ。
庶務のおねえさまに貰いに行った。
「あのー、切手、いただける?」
「郵便物は一括集荷になってます。この箱に入れておいてね!」
と言われてしまった。
ゴミ箱を漁る様なおあつではあるが、常識的にさすがにその場では入れられない。
おねえさまがいなくなった隙に、ポイッポイッっと入れたおあつであった。
しかしながら、翌日の朝、おあつの受け箱の中に戻って来ていたそうである。
「あたしのごはん、どーなるのよー」
おわり