それでも飲んでゐる(7)
【時計をいじってまでイヤなヤツを先に帰す編】
花見である。
上野公園である。
女子とみるや必ずセクハラをするオヤジがいた。
同じ職場なので飲み会に時々誘わなくてはならない。
日本人なのに何故かびっくりすると
「ワォ!」
ゲップをすると何故か
「ウップス!」
という位、変わったオヤジだ。
一時、職場のエレベータが1階に止まる寸前に
このオヤジの声で、「ウーップス!」と聞こえるというオカルト話があった。
その日は昼から花見の準備で大忙しだった。
缶ビールは3ケース。1人12本だ。
酒屋のおばちゃんに思いっきり冷やしてもらうよう頼む。
場所取りもした。
女子から意見が出た。
「スミマセン!セクハラオヤジと飲むのヤなんですけど!」
そりゃそうだ。
「ヤツを早く返す方法か・・・・・」
皆がNHKのプロジェクトXの再現ビデオのような立ち位置で悩んだ。
俺たちかっこいい!
もともと意地の悪い浜のオヤジと、何回もの飲み会ですっかり意地悪く育った弟子たち。
鬼のような意見が続出した。
(1)場所を偽って教える
(2)そもそも上野公園に行かない
(3)お客さんに電話してもらい仕事させる
(4)時間をずらす
(5)1回お開きにして飲みなおす
(6)花見客にセクハラさせて逮捕されるよう仕向ける
・・・
自分がやられたらどうなんだろう?
・・・などと浜のオヤジと弟子は考えるはずもない。
仕事そっちのけで長時間の作戦会議が開かれた。
結論は(5)、しかも更なる罠とひねりが!・・・。
・・・上野公園である。
花見が始まった。
打合せどおり浜のオヤジ率いるスワット隊が暗躍する。
「おい!時計を合わせる。2時間進ませろ!」
「チェックしろ!」
「3・2・1・OK!」
ってな感じで、皆時計を進ませる。
・・・スワット隊の時計はもう9時である。
本当はまだ7時過ぎである。
セクハラオヤジの隣に座った工作員はかなりなペースで
自らビールを飲み、セクハラオヤジのピッチを上げさせる。
すでにチューハイ濃度は80%が焼酎だ。
30分後、セクハラオヤジは「い〜感じ」に酔っ払ってきた。
・・・早っ!まだ7時半過ぎなのに!
浜のオヤジ将軍はとても満足そうにセクハラオヤジを眺める。
工作員も泥酔したので交代する。
チューハイの濃度はゆうに90%を超えているであろう。
だるま焼酎35である。
効かないはずはない。
・・・これは犯罪では?
良心がよぎるが、「楽しいからいいや!」と開き直る。
なにより早く帰して女子と楽しく飲むのが大切だ!
1時間が過ぎて、浜のオヤジ将軍が
「そろそろ帰らせちまえば?カカカ!」
と鬼のように言い放った。
スワット隊の時計はすでに夜の10時を指している。
いくら酔っ払っているとはいえ、自分の時計と2時間も違っていたらバレるんでは?
・・・スワット隊に極度の緊張が走る。
わしらはセクハラオヤジのとなりに行き、
「○○さん、奥さん大丈夫なんすか?もう10時っすよ!」
「××、そうだよなー!」
「早いっすねーもう10時っすか!」
・・・こいつら鬼である。
セクハラオヤジは強度の恐妻家で、今日は11時に帰る約束らしい。
「ヤバイ!」
泥酔したセクハラオヤジはものすごい勢いで立ち上がり
自分の時計を見る暇もなく、
「みなさんスミマセン!時間なんで!」
浜のオヤジ将軍が
「えーもうかえっちゃうのー早いっすよーー!」
と、とどめ。
聞く耳も持たずセクハラオヤジは上野公園の人ごみに消えていった。
浜のオヤジは、かなり満足そうな表情でタバコをふかしていた。
「こ、これでいいんだ。」
スワット隊は罪悪感を酒でマヒさせながらサクラを楽しんだ。
まだ8時である。
おわり