だ、だれかコイツらのビールを止めてくれ!(2)

【浜のオヤジ、飲み屋でスパインを語る編】

 

その日は何時に無く浜のオヤジの機嫌が悪かった。

マウスを動かしてフェースを作るたびにキコキコ音がする。

「これはやばいな。飲みに行かなくては」

わしはそう思い、若い衆に声をかけた。

 

東京駅ビル。

ここにはさまざまな思い出が詰まっている。

出張の新幹線ギリギリまで飲んで超ダッシュで最終に乗ったこと。

 

浜のオヤジが心配して携帯に電話してくる。

「ちゃんと乗れた?」

「今、走ってます!!!!

「よかったね間に合って!」

「いや、わしが走って、列車に向ってるんですよ!」

 

・・・思い出と言っても、全て酒がらみである。

 

仕事が終わり、皆で東京駅ビルに向った。

浜のオヤジは愛想笑いはしてくれるが機嫌が悪い。

「まー飲んだらなおるっしょ」

わし浜のオヤジを甘く見ていた・・・・。

 

ビールが来た。

今日は浜のオヤジのことを考えて「たこ屋」はやめた。

ビールが来ないと言ってブチ切れそうな予感がしたからである。

 

「かんぱ~い!!」

事件はその直後に起こった。

 

「おまえら飲んでるヒマあんのか?」

 

浜のオヤジが言い放った。

乾杯をしてジョッキが口につく、その前に!である。

絶妙なタイミングである。

時が止まった。

確かに浜のオヤジ理論によると呑んでる暇は無い。

酒でごまかそうとしているフシもあった。

 

一同ビールに口をつけないままテーブルに置いた。

「の・・・のみたい!」

 

「おまえら、もちっと勉強しろよーー」

浜のオヤジがやっと具体的にわしらへの不満を口にした。

 

「じゃあ、今日はスパインの勉強しろよ」

皆はいっせいに近くにある七味やら刺身のしょうゆ入れやらを手に取った。

「こ、このスパインはこ、こ、これですよね!」

刺身のしょうゆ入れのスパインとはいえ奥が深い。

「ちがうだろ!」

さすがに浜のオヤジには「最適なスパイン」が即時に浮かぶ。

 

「じゃあさー、この七味のフタの先をよーくみてみろよ」

よーく見ると七味のふたの先はぎざぎざになっていてその先は面があっちからこっちからかなり複雑な形状になっている。

「イヤーーーーーーーーーっ!」といいたくなるような形状である。

誰も答えない。

下手に答えると「バカ」がばれるからだ。

浜のオヤジにも一生バカにされる。

陰口も言われる。

この上ない恐怖だ。

 

「もう酒のみましょうよ。」

誰もがこういいたかったに違いない。

スパインなんかどうだっていいじゃん」

これを言ったらおしまいであることも。

 

「じゃあ次ー。ジョッキのスパインは!?」

浜のオヤジが自分だけ飲みが進んでいるジョッキの底を指差した。

「げげっ!七味よりすごいじゃん!!」

 

「面がいっぱいある。」

子供が10以上の数を数えられないときに使う「いっぱい!」と同じである。

(ちなみにマメはよく「いっぱいいっぱいです!」と大した事無いのに発言する)

 

そのとき、かわいいKちゃんがちょっと酔っ払いで可愛くこういった。

「あたひ、刺身のサラのスパインわかりましたよーーーーへへへ」

説明を終えたKちゃん浜のオヤジはいつもの満面の笑みで

Kちゃんせいかい~

Kちゃんを指差しながら言った。

 

小学校の体育のテストで「逆上がりできたやつから今日は終了~」

みたいなノリになってきた。

「や・やばいぞ。面が一杯なものしかないじゃん!」

 

いちかバチかだ!

「割り箸のスパインわかりました!」

 

おわり